<<第52回:【住宅業界の動向と今後の課題】未来の住宅スマートホームの展望・【スマートホーム・スマートスピーカー・スマートリモコン・ZEH基準】
災害に耐えるレジリエンス住宅【ライフラインのストップに備える】
東日本大震災のとき、ライフラインの復旧に大幅な時間を要したことがきっかけで、「レジリエンス住宅」という新しい住宅の考え方が生まれました。どのように災害に強いのか、その特徴を解説します。
災害時のライフライン
大きな災害が発生した場合、水・電気・ガスというライフラインが止まってしまいます。そのため、災害大国日本では、大きな災害があるたびに、地震・火災・台風などに耐えうる強固な住宅を作ろうと努力してきました。
東日本大震災ではライフラインが止まってから80%復旧するまで約8日間の時間を要したといいます。また、ライフライン別に見ると電気は6日、水道は24日、ガスは34日かかったというデータもあります。この大きな教訓から現在は災害発生時だけでなく、災害後にも強い住宅が求められているのです。
生活を確保するレジリエンス住宅
そこで登場したのが「レジリエンス住宅」です。これは国が住宅選びの基準として「しぶとさ、強靭さ、回復力」(レジリエンス)に優れた住まいのことを意味しています。細かい基準・チェックリストもありますが、簡単にいうと、災害でライフラインがストップしても、約1カ月間は平常通りの生活が続けられるような住宅、ということです。
具体的な例をいくつか挙げてみましょう。
たとえば、住宅に設置されている「太陽光発電パネル+蓄電池」システムによって長期間電気が供給される。災害時にだけ使用できるLPガスのタンクを設置し、そこからガスや電気が供給される。100Lの水を貯められる貯水槽を設置し雨水を貯めておくことで、災害で断水しても水洗トイレなどの生活用水を確保できるようになっている。こういったことが可能な住宅がレジリエンス住宅なのです。
レジリエンス住宅
国の定めた基準を満たす強靭さを持った住宅。平常時の「免疫力」、災害発生時の「土壇場力」、災害後の「サバイバル力」の3点をチェックする。
LPガス
液化石油ガスのこと。一般住宅にガスを供給するだけでなく、災害発生時に安定的に使用可能なエネルギー源を確保するため、「分散型エネルギー」として提供されることもある。
貯水槽
戸建住宅においては、床下スペースに設置される。貯水槽から直接取水することも可能で、災害発生時の飲料水不足の解消にも貢献する。
今後のレジリエンス住宅
現在はZEH基準をクリアした住宅でレジリエンス性を持っていれば、補助金の金額がアップする形で国がレジリエンス住宅を、あと押ししています。また、大手住宅メーカーも続々と高性能なレジリエンス住宅の発売を発表しています。今後、参入する住宅メーカーも増え、技術の進歩に合わせて競争・低価格が進み普及していくでしょう。
補助金
住宅によって申請できる制度が異なるが、一戸当たりおよそ60~115万円の補助金が得られる。取得するには公募期限内に申請を行い、工事代金の支払いを終える必要がある。
レジリエンス住宅とは
レジリエンス住宅の主な機能
時代に合わせた空き家問題への対策【リノベーションやサブスクの登場】
空き家問題は、2014年に「空家等対策特別措置法」が制定され強制的に解体できるようになったものの、それだけでは抜本的な解決になりません。今後どのような対策を行っていけばよいのでしょうか。
空き家のリノベーション
現在、少子化・高齢化により空き家が増加し大きな問題となっています。
やはり、空き家問題で重要なカギになるのがリノベーションです。2020年のコロナの影響によりリモートワークが急速に普及しました。それに伴って都心部から郊外に移住するニーズが高まりつつあり、二拠点生活も注目が集まっています。
地方自治体によっては空き家や古民家のリノベーションに対して助成金を出しています。このような動きが盛んになってくれば空き家問題の解決の糸口になります。
また、今後働き方改革により余暇が増えてくる人が多くなるはずですが、その余暇を利用してDIYがますます普及すれば、これもプラスに作用するでしょう。
二拠点生活
生活拠点を都市部と地方の2カ所に置く人が増えている。とくに首都圏においてその傾向が見られ、地方や郊外に広い家を持ち、都市部には寝食ができるほどのコンパクトな住まいを持つ人が多い。
空き家を利用した新しいサブスク
2019年に空き家を利用した新しいサブスクリプションサービス「ADDress」が始まりました。
これは、地方の空き家などを募って改装した物件に月額4万円で住み放題になるという画期的なサービスです。運営者側は物件コストを抑えつつ個室を確保し、共有のリビング・キッチン、家具、Wi-Fi、光熱費、アメニティー、清掃まで料金内で提供しています。利用者は全国のどの契約施設でも自由に利用できるので、好きな場所に好きなタイミングで生活ができます。(1親等以内は無料なので、家族で滞在可)。このサービスは当初30人ほどの枠で応募を開始したのですが、1100人以上の応募があり、大きなニーズがあることが証明されました。
サブスクリプション
一定料金の支払いで、全国の空き家や別荘を利用することができるしくみ。観光以上、定住未満の住処を求める人々にニーズがあり、空き家対策だけではなく、経済効果にも期待できる。
空き家のリノベーションの高まり
空き家を利用した新しいサブスク「ADDress」
成長を続ける中古住宅市場の行方【住宅メーカーや工務店も次々に参入】
リフォーム会社が伸びている理由を解説しましたが、中古住宅市場においても同様に顧客ニーズの変化や建物寿命が長くなっているなどの要因で今後も伸び続けていくでしょう。
2025年までは右肩上がりで伸び続ける予想
矢野経済研究所の調べによると、2025年までマンション・戸建てともに中古住宅の売買成約件数は増加の一途を辿ると予想しています。中古住宅を安価で購入し、リフォーム・リノベーションをする流れがさらに増加していくことでしょう。
また、空き家などを利用したサブスクリプションのサービスも始まっています。車などと同様、住宅においてもニーズは「所有」から「シェア」に移行しつつあります。この流れも確実に中古住宅市場の後押しをすることになるのは間違いないでしょう。
激化する中古住宅市場
しかし、住宅・不動産業界全体では縮小傾向にあるので決して楽観視できない状況です。
日本の人口が減少していく以上、中古住宅市場の上昇と反比例して新築は確実に衰退していくのは間違いありません。そうなれば現在の住宅メーカーや工務店、ビルダーや不動産会社などは、次々に中古やリフォーム市場に流れ込むはずです。住宅市場全体が下がっていくのであれば、結局供給過多となって市場がレッドゾーンになってしまうのも必然といえるでしょう。
中古市場が激化してライバルが増加すれば、他社との差別化も難しくなっていきます。現段階でもすでに「家事楽」や「子育て」のアイディアを取り入れたコンセプトの住宅商品が販売されていますが、このような時代のニーズに合わせた差別化が重要になってくるのです。
また、欠陥住宅問題も同様に増えていくはずなので、インスペクション制度を充実させることも必須になるといえます。
供給過多
現在、人口減少に伴う市場の縮小によって、住宅は高価格を維持している。一方で団塊の世代が75歳以上になる2025年には、極度の市場縮小により、不動産価格が大暴落する可能性があるといわれている。
インスペクション制度
既存住宅の状況調査を行い、住宅の耐震性や防災用品の備蓄状況などについて、一定の基準を満たす場合に合格証をえることができる制度。合格証があることで、高値で住宅を売却できることが多い。一方で、当制度を利用して状況調査を行った結果、欠陥が見つかって値引きされたり、新たに修繕費用がかかったりすることもある。