<<第2回【保険業界】再編を繰り返す激動の保険業界・2025年問題と2035年問題【東京海上ホールディングス・SOMPOホールディングス・MS&ADホールディングス・保険業界の再編】
保険料の値上げラッシュ問題【生命保険も損害保険も値上げの傾向】
生命保険業界では2017年に貯蓄型保険の保険料の値上げが相次いで行われました。損害保険業界では、2020年中に火災保険料の値上げを実施することになっています。これらの値上げの理由について解説します。
標準利率の引き下げによる保険料の値上げ
生命保険会社は、標準利率を基準として保険料の運用利率に当たる予定利率を定めています。一般的に予定利率が引き下げられると保険料は高くなり、予定利率が引き上げられると保険料は安くなるというしくみになっています。
2017年4月、標準利率が0.25%に引き下げられたことで、予定利率も引き下げられ、それによって保険料は大幅にアップしました。特に大きな影響を受けたのが、貯蓄型保険の保険料です。保険料の値上げだけにとどまらず、魅力的な運用利率を確保できなくなったため一部商品の販売停止に踏み切りました。
そのうえ、2020年には標準利率が一層引き下げられ0%になる見込みです。
標準利率
生命保険会社が契約者から預かった保険料を運用する際の目安としている利率。標準利率は金融庁が算定している。
予定利率
保険会社が保険料を運用するときに約束する利率のこと。契約時に定めている。予定利率が高ければ保険料は割安になる。
火災保険は2年連続で保険料が値上がり
損害保険会社各社が提供する火災保険は、自然災害や火事などのリスクに備える保険です。保険料は、損害保険料率算出機構が定める参考純率に従って保険会社が算定します。
2019年10月、損害保険料率算出機構は火災保険の参考純率前年度も参考純率がを引き上げる方針であると発表しました。前年度も参考純率が5.5%引き上げられたことに伴って、2019年10月に国内損保各社は火災保険の保険料を引き上げているため、2年連続で火災保険の値上げが実施されることになります。
損害保険料率算出機構
自動車保険や火災保険、地震保険などの保険料率の算出や、自賠責保険の保険金請求に関する調査などを行う団体。
参考純率
料率算出団体が算出する純保険料率のこと。保険会社から収集した契約や支払に関するデータなどを活用して算出する。
自動車保険の保険料も5年ぶりに値上がり
損害保険会社各社は、2020年1月に平均して約3%の自動車保険の値上げを実施しました。値上げの要因としては、消費税増税、自動車部品の高額化、民法改正の3点が挙げられます。
近年はドライバー支援機能を備えた先進安全自動車が増加し、自動ブレーキシステムなどの高額な部品が増えています。また部品のアッセンプリー化が進み、故障個所だけ交換できないことも高額化の一因となっています。部品の高額化によって支払保険金も増加し、保険料の値上げにつながっています。
また、民法の改正によって法定利率が高くなったことから、賠償金額の増加も見込まれています。
先進安全自動車
ASV(AdvancedSafety Vehicle)とも呼ばれる。先進技術を利用して安全を支援するシステムを搭載した自動車のこと。
参考純率算出の流れ
保険乗合代理店の急成長【1つの窓口で複数の保険会社の保険が比較できる】
従来は、国内生命保険は生保レディと呼ばれる外交員が販売し、外資系生保は業務委託のセールスマンが販売するのが一般的でした。しかし、保険業法の改正により「保険乗合代理店(保険相談窓口)」が急増し、成長を続けています。
保険ショップの登場
保険乗合代理店とは、複数の保険会社の商品を取り扱うことができる代理店のことです。1996年の保険業法の改正により、保険乗合代理店が登場しました。
保険乗合代理店のなかでも最も勢力を伸ばしているのが、来店型の保険ショップです。ショッピングモールや商店街、駅ビルなどに出店してライフプランニングや保険のコンサルティングを行い、最適な保険商品を提案するという営業スタイルです。子ども向けのキッズスペースを設置したり、無料でライフプラニングを提案したりして、見込み客に来店してもらうというしくみの構築は、従来の生命保険の営業スタイルを一変させました。来店型保険ショップの年換算保険料は、2013年度から2018年度(見込)の5年間で約1.6倍に成長し、その浸透ぶりがうかがいしれます。
保険ショップ
来店型保険ショップとも呼ばれる。大手来店型保険ショップとしては、ほけんの窓口、保険クリニック、みつばちほけん、保険見直し本舗、イオンの保険相談、ほけん百花などが存在する。
保険乗合代理店のメリットと問題点
保険乗合代理店は、ユーザーにとっては「複数の保険会社から最適な商品を選べる」という大きなメリットがあります。従来は、複数の保険会社の商品を比較検討し、よりよいものを選択することは容易ではありませんでした。しかし、保険乗合代理店では1つの窓口で多くの保険会社の商品を比べることができるため、最適な保険に出会える可能性は高まります。
けれども、公平な観点から保険商品を提案している代理店ばかりではないことが発覚しました。手数料目当てに高額な保険を積極的に販売する代理店が複数存在したのです。そこで金融庁は、2016年に保険業法を改正して、顧客ニーズに合わせた保険を提案することや情報提供の義務化などを明文化しました。
専属代理店と保険乗合代理店の違い
来店型保険ショップの新契約年換算保険料推移(億円)
>>第4回【保険業界】ネット炎上保険や自転車保険など損害保険の新しいニーズ・かんぽ生命・共済の動向【ネット炎上保険・自転車保険・共済・掛け金】